高血圧
◆ 高血圧とは
心臓はポンプのように収縮と拡張を繰り返して、
全身に血液を送り出しています。
血液の流れを血流といい、
血流の影響で動脈の壁にかかかる圧力を
血圧といいます。
心臓が収縮するときに血圧は最も高く、
収縮期血圧(上の血圧)と呼ばれ、
心臓が拡張するときに血圧は最も低く、
拡張期血圧(下の血圧)と呼ばれています。
収縮期血圧が140mmHg以上、
または拡張期血圧90mmHg以上の場合を
高血圧といいます。
50歳以上の2人に1人は高血圧であるといわれており、
日本には3,000万人以上の高血圧患者がいると
推測されています。
◆ 高血圧の原因
高血圧は本態性高血圧と二次性高血圧の2種類があります。
二次性高血圧は
腎臓、副腎、甲状腺等の異常が原因で血圧が高くなる疾患であり、
原因を治療することにより血圧を改善できます。
一方、本態性高血圧は高血圧全体の80%以上を占めていますが、
その原因はいまだに解明されていません。
しかし、本態性高血圧は
食塩の摂り過ぎ、肥満、ストレス、遺伝等が
関係していることがわかってきています。
高血圧の症状
高血圧の初期の段階では、
ほとんどの人が無症状です。
血圧がある程度高くなると、
頭痛、肩こり、倦怠感、動悸等の症状が
みられることもあります。
しかし、これらの症状は高血圧に限ったことではないため、
別に原因があるのではと考えがちであり、
血圧が高いことに気づかない人も多いようです。
このため、検診で初めて高血圧を指摘されることもよくあります。
<高血圧が続くと>
血圧が高いだけでは無症状であることが多いため、
血圧が高いことに気づかなかったり、
高血圧と指摘されても放置してしまうことが
少なくありません。
高血圧はよくないと漠然とはわかっているものの、
なにが問題になるのかが意外と知られていません。
高血圧の怖さは動脈硬化が進展することです。
その結果、動脈の内腔が狭くなったり詰まったり、
逆に膨張(瘤)して破裂することもあり、
致死的な病気を引き起こしかねません。
脳の動脈の内腔が詰まってしまうと、脳梗塞が起こり、
破裂してしまうと脳出血が起こります。
心臓の動脈(冠動脈)の内腔が狭くなると狭心症が起こり、
詰まってしまうと心筋梗塞になります。
さらに、
心臓では高血圧が続くと
より強い力で血液を送る必要があるため、
筋力トレーニングのごとく
心臓の筋肉が徐々に肥大(心肥大)してしまいます。
その限界を超えると、
心臓の機能は低下して、心不全となります。
腎臓では、小動脈が動脈硬化を起こして、
腎機能が低下します。
腎不全の末期では透析療法を必要とすることもあります。
このように高血圧は
知らず知らずのうちに命に関わる合併症を引き起こすことから、
「サイレントキラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。
◆ 血圧測定
血圧は常に一定という訳ではなく、時間帯により変動します。
起床時に血圧は最も高く、
就寝時に最も低くなります。
特に、起床時に急激に血圧が上昇することがあり、
モーニングサージと呼ばれています。
この急激な血圧上昇により
動脈の壁が傷つきやすくなります。
実際、心筋梗塞の発症が最も多い時間帯は早朝です。
また、血圧は季節によっても変動します。
気温が10℃低下すると、
平均して上の血圧は13mmHg、下の血圧は7mmHg上昇する
ことが知られています。
冬に最も血圧が高くなるため、
心筋梗塞は冬に最も多く発症します。
当院では、1日2回の家庭での血圧測定を推奨しています。
血圧の不安定な起床時や食後ではなく、
朝食前と夕食前の2回測定して下さい。
椅子に背筋を伸ばして座って、
腕に力を入れずにリラックスした状態で
測定します。
家庭での血圧値は
治療効果や経過をみるために重要な指標となるため、
血圧手帳等に記録する習慣をつけて下さい。
また、来院する際には持参していただければ
参考にさせていただきます。
最近ではいろいろな血圧測定器が市販されていますが、
上腕で測る血圧計が最も信頼性が高いです。
一方、手首および指で測る機器は
測定値の変動が大きいため、
信頼性は劣ります。
◆ 白衣高血圧
高血圧の人に限らず、
血圧を病院で測ると家庭よりも高い測定値がでることが
よく知られています。
特に、家庭での血圧値は正常で、
病院で測定すると140/90mmHg以上となる場合は、
白衣高血圧と呼ばれています。
家庭の血圧は落ち着いた状態で測定するため、
信頼度が高いといえいます。
このため、白衣高血圧は治療対象にならないことも少なくありません。
しかし、左室肥大などの高血圧の合併症がある場合は、
病院以外でも血圧が高くなっていることが多く、
治療の必要があります。
◆ 高血圧の治療
血圧を上げる誘因の改善が治療の基本です。
塩分制限、肥満の解消、およびストレスの解消に努めることから
始めます。
上記の生活習慣の是正にも関わらず、
血圧が高い状態が続く場合は
血圧を下げる薬(降圧薬)が必要です。
初診時の血圧値で以下のように3群に分けて、
段階的に治療を進めてゆきます。
●低リスク群
(初診時血圧140-159/90-99mmHg)
生活習慣の是正を行い、
3ヵ月に血圧が正常化しなければ、降圧薬を開始します。
●中等リスク群
(初診時血圧160-179/100-109mmHg)
生活習慣の是正を行い、
1ヵ月後に血圧が正常化しなければ、降圧薬を開始します。
●高リスク群
(初診時血圧180/110mmHg以上または高血圧の合併症のある場合)
直ちに降圧薬を開始します。
「血圧の薬を飲むと、一生飲まなければいけないからイヤだ。」
という訴えをよく聞きます。
しかしながら、
生活習慣を改善して血圧を安定させれば、
降圧薬を中止できる場合もあります。
また、前述のごとく気温により血圧は変動するので、
冬季のみ降圧薬を必要とするケースもあります。
<血圧の目標値>
高血圧治療の目標値は、年齢と合併症の有無によって
下記のように異なります。
65歳以上 140/90mmHg未満
65歳未満 130/85mmHg未満
糖尿病または腎障害患者 130/80mmHg未満
特に75歳以上の高齢者においては、
治療により脳、心臓、腎臓等の重要臓器の循環障害を
起こす可能性があるため、
慎重に治療を行う必要があります。
◆ 降圧薬治療の基本
降圧薬が開始された場合、
多くの方が降圧薬を長期に継続することになります。
降圧薬はあくまでも血圧を下げる薬であって、
高血圧そのものを治す薬ではありません。
このため、高血圧が続く限り、
降圧薬を飲み続ける必要があります。
なぜなら、
命にも関わる高血圧の合併症を起こす危険にさらされるより、
降圧薬で血圧を下げて合併症の発生を防ぐ方が、
はるかに大切であるからです。
降圧薬開始当初は穏やかな降圧を目標に処方しますが、
その後血圧の目標値達成のために量を増やしたり、
他の薬を追加したりして調節します。
実際、重症の高血圧の場合は、
1種類の降圧薬では不十分なことがあり、
3−4種類の降圧薬を服用して
血圧を正常化させることもあります。
降圧薬によって一時的に血圧が下がったからといって、
自分の判断で服薬を中止すると
血圧は元の高い値に戻ってしまいます。
血圧の上下が繰り返されると、
動脈の壁が傷ついて合併症の発症に繋がるため、
大変危険です。
用法・用量を守り、規則的な服薬を心がけて下さい。
◆ 高血圧の食事療法
過剰な塩分摂取は高血圧の一因です。
塩分を過剰に摂取して
血液中のナトリウム濃度が上昇すると、
細胞の活動が低下してしまいます。
このため、水分でナトリウムを薄めようとする作用が働き、
腎臓で水分排出が減るために血液量が増加して、
血圧が上昇するのです。
以上の理由で、
高血圧の食事療法の基本は塩分を控えることです。
1日の塩分摂取量はヨーロッパでは5-6g、
多いといわれるアメリカでも8-10gであるのに対し、
日本人は11-13gとかなり多く摂取しています。
血圧が正常の人でも10g以下に塩分摂取量を抑えることが
勧められています。
高血圧の人では6g以下が目標であり、
日本人の平均の半分にする必要があります。
高血圧は同一家族内で多く発生することが知られています。
この理由は、遺伝ばかりでなく、
塩分をよく使う家庭での食生活にも
原因があると考えられています。
次の世代に高血圧を継がせないためにも、
薄味の食事を心がけましょう。
逆に、
カリウムを摂取すると、
体内からナトリウムの排泄が促進されます。
野菜や果物にはカリウムが豊富に含まれているため、
積極的に摂るようにしたいものです。
事実、塩分摂取量が多く、
高血圧が多いとされる東北地方でも、
りんごの生産地では高血圧の人が意外と少ないことが
知られています。
ただし、腎臓の機能が悪い方では、
カリウムの摂取により高カリウム血症となって、
逆に血圧が上がることがあるため、注意して下さい。
<塩分減量の工夫>
塩分を控えることは、食事療法の中で一番つらいことかも知れません。
以下に日々の食生活の中での工夫を紹介します。
1. ラーメンやうどん等の麺類の汁には
4-6gの塩分が含まれているため、
できるだけ残すようにしましょう。
2. しょうゆ、ソースは回しがけせずに、小皿に入れて
摂取量を減らしましょう。
3. だしをきかせて、しょうゆ等の調味料の使用を
減らしましょう
4. 香辛料、かんきつ類、ごま、しょうが、にんにく等を利用して
味気のない減塩食を引き立てるようにしましょう。
塩辛い味が好みの日本人には、
いきなり1日6gまでの塩分制限は難しいです。
徐々に慣らしていきましょう。
◆ 高血圧の運動療法
運動療法は食事療法と並んで、
改めるべき生活習慣の柱です。
適切な運動を継続すると、
血圧を下げることができます。
適度な運動とはウォーキング、軽いジョギング、水泳等の
有酸素運動であり、約3週間の継続で降圧効果が現れます。
実際、30−45分のウォーキングを10週間毎日続けた場合、
半数の人の上の血圧が20mmHg低下した
という報告もあります。
また、適度な運動は
高脂血症、糖尿病、肥満の予防・改善効果があるため、
合併症の予防にも効果的です。
一方、一瞬息を止めて力を振り絞る重量挙げ等の無酸素運動は、
一時的に血圧を急上昇させるため、
高血圧の人には危険です。
なかなか毎日運動するのは難しいかと思われます。
歩ける距離は乗り物を使わないようにしたり、
エスカレーター、エレベーターに頼らず
階段を利用することから始めてみましょう。
◆ 高血圧とたばこ
たばこに含まれるニコチンや一酸化炭素は血管を収縮させ、
たばこ1本で10−20mmHg血圧を上昇させます。
特に朝の「起き抜けの1本」は30-50mmHgも
血圧を上昇させてしまうこともあります。
さらに喫煙により、
高血圧の合併症である狭心症、
心筋梗塞、脳梗塞になりやすいことも
明らかになっています。
たばこはどの側面からもいいことはありません。
本数を減らすだけでは不十分であり、
完全に止める必要があります。
しかしながら、「体に悪い」と分かっていても、
喫煙の習慣はなかなか断ち切ることができないのが現状です。
最近では内服薬または貼付薬(パッチ)といった禁煙補助薬があり、
禁煙の達成率が高まっています。
当院では禁煙外来を設けており、
健康保険を使って禁煙補助薬の処方が可能です。
禁煙を希望される方は、一度ご相談下さい。
◆ 高血圧とアルコール
適量の飲酒は、血管を拡張させて、
血圧を下げることもあります。
適量とは、
ビールなら大瓶1本、日本酒なら1合、焼酎(25%)なら120mlまでです。
この適量を超えて飲みすぎた場合は、
逆に血圧は上昇します。
また、お酒のつまみには食塩を多く含むものが好まれるため、
塩分摂取過剰にならないよう注意して下さい。
毎日飲酒する人は、
飲まない人より10歳年上に相当する血圧値であることが
知られています。
お酒を飲む人は週に2日以上の休肝日をつくるようにしましょう。
◆ 入浴と血圧の関係
一般的に熱いお風呂が好まれがちですが、
熱いお湯に入ると交感神経の作用で血管が収縮して、
血圧は上昇します。
また、長時間入浴して汗をかくと血液の濃度が高くなって、
血栓ができやすくなるため脳梗塞等が起こる危険性が増します。
一方、39℃程度のぬるめのお湯に入ると、
副交感神経が活性化して血管が拡張するため、
血圧は低下します。
血圧の高い人は、
ぬるめのお湯にゆっくりつかるようにしましょう。
また、
急激な温度の変化は血圧を急上昇させるため、
寒い時期には脱衣所を暖めておくなどの工夫をして下さい。
◆◇ 高血圧治療の目標 ◇◆
血圧を上げる要因は数多くあります。
このため、血圧が高いと生活にさまざまな制限が付いたり、
降圧薬を飲まなければいけないかも知れません。
高血圧治療の目標は
単に血圧の数字を下げることではなく、
脳梗塞や心筋梗塞といった重篤な合併症を
未然に予防することです。
しかしながら、
無理な生活習慣の是正計画を立てたり、
生活の質が犠牲になるようでは、
心身とも快適に過ごせません。
実現できる治療計画を立てて、
現在の自分だけではなく、
将来の自分をもいたわる気持ちで
血圧管理に取り組みましょう。


